福徳寺阿弥陀堂
福徳寺(ふくとくじ)は臨済宗の禅寺で楊秀山と号します。高麗川支流の沢沿いに建つこのお寺は阿弥陀堂と寺務所のような建物とその奥に墓地があるだけの、こぢんまりとした感じの山里のお寺です。
この阿弥陀堂は埼玉県内で現在する最古の建築物なのです。正丸峠に向かう山の中に、こんなに素晴らしい建築物があるのをブログ作者が知ったのは、20年以上も前のことでした。それ以来、現在もほとんど変わっていない付近の風景は、ここだけが時間の流れから、取り残されたような趣が感じられます。
上の写真を見てください。なんと美しい建物なのでしょうか。埼玉県にもこのような建物があったのです。
このお堂は東村山市の正福寺地蔵堂のような禅宗様(唐様)建築とは異なり、外観は純和様の建築様式で、しかも組物などは至って簡素で、どちらかというと平安時代の住宅風の造りなのです。
構造及び形式
表面三間側面三間、組物舟肘木、一軒半繁垂木、宝形造、茅葺形銅板葺、縁あり、内部格天井、後退して来迎柱を立て禅宗様組物を置く
この阿弥陀堂は、今回紹介している埼玉県の3棟の中世建築物中で、唯一の和様式の建築です。屋根の造りは宝形造といい、建物の四隅の棟の反りが中心の一点に集まり、そこに露盤・宝珠を置いた形の屋根であることから宝形造と呼ばれています。この形の屋根の造りは方三間の阿弥陀堂(特に平安時代後期の阿弥陀堂建築等)などによく見られるもので、このお堂もそれらの例にあてはまるものだと思います。宝形造阿弥陀堂の代表例としては、中尊寺金色堂・白水阿弥陀堂・富貴寺大堂などが上げられるのではないでしょうか。裳階付きの宝形造で大きめの阿弥陀堂としては法界寺阿弥陀堂なども上げられます。
中尊寺金色堂 岩手県西磐井郡平泉町
白水阿弥陀堂 福島県いわき市内郷白水町
富貴寺大堂 大分県豊後高田市田染蕗
法界寺阿弥陀堂 京都府京都市伏見区日野西大道町
屋根の葺きは茅葺形銅板葺です。造りとしては、大面取りの方柱、足堅め貫、内法長押、舟肘木、一軒半繁垂木、正面三間は蔀戸(しとみど)でこれが美しい、側面前一間は引違格子戸、背面中央一間には板唐戸を配しています。周囲に縁を設け、細部に至り和様の手法、様式を着実に伝えていて、鎌倉時代中期の建築と推定されています。ただ内陣構えは禅宗様で、後退した来迎柱を立て禅宗様の組物を置き、格天井、須弥壇等は室町時代初期の補修と思われています。お堂は乱石積の自然礎石の上に建ち、素朴で安定感があります。昭和30年に解体復元修理を行い、この時に茅葺から銅板葺に変更されたということです。
阿弥陀堂の本尊は、鎌倉時代の善光寺式鉄造阿弥陀三尊像で、埼玉県指定文化財になっています。
入間市の高倉寺観音堂も、元はここから近い、飯能市白子の長念寺にあったといいます。高麗川沿いを秩父へ向かう古道は秩父街道と呼ばれ、『新編武蔵風土記稿』にも出ていますが、その前身は高麗から秩父へ向かう鎌倉街道の支道ではなかったかと思われます。途中に鎌倉峠と呼ばれる小さな尾根越えがあります。
福徳寺阿弥陀堂の傍を通る沢沿いの道は、北へ鎌北湖や義経と弁慶の伝承がある顔振峠、黒山三滝方面へのハイキングコースになっています。
廣徳寺大御堂 | 高倉寺観音堂 | 福徳寺阿弥陀堂 |
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